No353 (2008/09/28)
失言?暴言?いや、本音!
私も不勉強で良く知らなかったのですが、中山成彬前国土交通大臣、しかも元文部科学大臣という人物はとんでもない偏見の持ち主のようです。今回の彼の発言は、彼には科学的な社会認識能力が無いことを如実に示したものであり、大臣どころか議員になるべき人格ではないことを示しています。彼の発言は、うっかり間違ったことを言ったり表現が暴力的であったなどという次元ではなく、彼の歪んだ社会認識に基づく信念の吐露であり、正に『本音』の発言です。
この種の発言があった場合、辞任の理由を失言あるいは暴言とする場合が多いようですが、ほとんどの場合、失言や暴言ではなく、今回同様むしろ本音の正直な発言であることがほとんどでしょう。ですから、辞任あるいは更迭の理由は、この種の発言をした人物の人格そのものが議員や大臣に不適格であるからなのです。
中山氏の辞任会見では、議会運営に混乱を生じさせる可能性があるから辞めるというものでした。麻生は、任命責任を問われた時、大臣指名では中山という人物の人選には誤りは無く、大臣就任後に今回のように本音を発言するとは思わなかったという点が誤算であったというものです。うっかり本音を言ってしまったという意味で今回の出来事は「失言」と言っても良いのかもしれません。
中山氏は、彼の地元宮崎における自民党の集会において、県連から発言を慎むようにたしなめられたその直後に、再び日教組解体運動の先頭に立ちたいと発言しています。それにもかかわらず、宮崎県の自民党県連は次の選挙で中山氏を公認するという決定をしたといいます。
これは理論的には、自民党という政党の体質として、中山氏の今回の発言内容そのものは取り立てて問題にすべきことではないという認識を示していることになります。しかし、選挙対応あるいは有権者向けには発言は慎んだほうが良いということを表明しているだけということなのでしょう。これでは中山氏の方がまだしも正直であり、宮崎県の自民党県連の方がより姑息な連中ということになります。
さて、宮崎県民を始めとする有権者はこの自民党の体質に対して、どのように判断するのか?あるいはこの問題は争点にならないのか、注目しておこうと思います。
追記
自民党は、中山氏では選挙を戦えないと考えた様です。おそらく麻生周辺の選対から圧力がかかったのであろうと推測されますが、中山氏は次の選挙に立たないことになりました。
(2008.10.04)
No352 (2008/09/26)
麻生と小泉
効率優先、規制緩和、結果として国民の安全と福祉の切り捨てと貧富の格差の2極分化というの日本の現在の弱肉強食の経済状況を作り出し、米国のテロとの戦いを口実として
(これは全く虚偽であったわけですが、小泉はついにこの問題について何の説明もすることなく頬被りしたまま逃げ出しました。)、米国盲従の日本の軍事国家化への先鞭をつけた、おそらく戦後最悪の内閣を率いた小泉が今期限りで議員を辞めるそうです。おそらく自民党の総裁選において、小泉の経済政策を継承する小池が敗北を喫し、麻生内閣において小泉の経済路線を継承する勢力が排除されたことが直接の原因であると思われます。
小泉が議員を辞めることは誠に喜ばしいことですが、日本の社会システムに彼の残した爪あとの傷は浅くありません。
さて小泉以降、国民の判断を経ないまま、三つ目の政権となる麻生内閣が発足しました。麻生は経済的には会社経営者という経歴から、おそらく小泉とは異なり、歴代の戦後保守政権と同じように国家の財政主導で景気浮揚を図る路線に回帰するようです。これは小泉とは異なる経済政策ですが、これも全く頂けません。更に経済規模を水ぶくれさせてパイを大きくして、そのおこぼれで貧困層を満足させようというだけの話です。
一見全く正反対のような彼等ですが、そのタカ派的な性格あるいはファッショ的な性格には非常に似通ったものを感じます。麻生内閣の顔ぶれを見れば、麻生自身のワンマン=ファッショ的な内閣を目指していることは明らかであり、その中に石破、浜田という強面の米国盲従の軍国主義者を配したものになっています。こんな内閣には早く退陣していただきたいものです。蛇足ですが、自民党を中心として世襲議員が牛耳るこの国の国政にはあきれ果ててしまいます。
今年中には衆議院の解散・総選挙が行われることになるでしょう。民主党にそれほど期待するわけではありませんが、消去法による「よりマシ」な現実的な選択肢として小沢民主党政権しか無いのが現実です。
No351 (2008/09/13)
川辺川ダム
今回も前回に続いて九州管内の公共土木事業関連の書き込みです。あまり説明の必要は無いでしょう。新聞記事をご覧ください。
2008.09.11大分合同新聞夕刊
追記
今朝のニュース番組で、川辺川ダム建設を続行することを求める住民の陳情の様子が報道されました。これは、ダム建設に、おそらくやむなく同意し、苦渋の選択として慣れ親しんだ土地を離れ村落ごと移転した住民たちの悲痛な訴えなのだと考えます。大規模公共事業にはつき物の悲劇です。
事業関係者は、こうした住民に対する適切な政策的配慮を行うと同時に、繰り返される悲劇に学び、計画立案に当たっては慎重な検討と地元住民との徹底的な議論を尽くす事が不可欠だと考えます。
(2008.09.19)
No350 (2008/09/10)
大入島訴訟と裁判員制度
このHPで継続して報告している、大分県佐伯市の大入島の埋め立て工事に対する差し止めを求める住民訴訟の控訴審判決が出ました。まずはこれを報告した新聞報道を紹介します。
控訴審判決も住民の訴えを退け、行政の勝訴になりました。司法の判断は、これまで通り地域住民の意思や、かけがえのない自然環境の重要性よりも、その必要性あるいは必然性も定かではない『公共』土木事業を強行する国や自治体の意思を優先するものです。この種の司法の判断の無能、あるいは住民軽視の判断は救いようがありません。
さて、来年から刑事事件についての裁判員制度が導入されます。私はこれについては二つの意味で反対であり、仮に裁判員に選出されても拒否することにしています。
まず第一に、刑法に関する個人的な犯罪とは社会性においては余り重要ではなく、専門馬鹿(=裁判官)に任せておいても特段問題はないと考えるからです。手続き等を考えれば、裁判員制度を導入することによって、審議が迅速になり、より正当な判断が出来るなどと言うことは考えられません。
第二に、これは考えようによっては体制を維持するためのかつての五人組制度のように国民相互を監視させる制度となるからです。
もし裁判員制度を意味のあるものにしようと考えるならば、現在ほとんど機能していない国家・自治体の横暴を住民の立場から牽制する機能を司法制度に持たせると言う意味で、行政訴訟にこそ導入すべきものだと考えます。
No349 (2008/09/05)
『温室効果・再放射』再考
二酸化炭素地球温暖化仮説では地球大気の『温室効果』と『再放射』という言葉を聞くことがあります。この二つの言葉が地球大気下層における温度構造を説明する上で大きな誤解の元になっているように思います。もう一度言葉の意味とその物理的な実像について考察し、整理しておきたいと思います。
1.地球の気象システムの平均的熱収支
地球大気に於ける温度構造を説明する上でよく見られるのが平均的な熱収支図です。このHPでも既に
『大気温度はどのように決まるか』と言うレポートでこれに触れていますが、その後の議論を踏まえて更に検討することにします。熱収支図は多少数値が異なる場合もありますが、基本的には次の図に示されるようなものが一般的です。
この図は、地球の位置における太陽放射強度(太陽定数と呼ぶこともある。)である1,370W/m^2の1/4の値を100とした場合の平均的な熱(エネルギー)の単位時間当たりの相対的な移動量の概略を示したものです。
まず、地球の位置における太陽放射強度はどのように決まるかを考えておくことにします。太陽と地球の距離を149,597,870km、太陽の直径を1,392,000km、太陽表面温度を5,780Kとします。太陽表面における放射強度はステファン・ボルツマンの式から次のように求めることが出来ます。
S0=σT^4=(5.67×10^-8)×5,780^4=63,284,071.5W/m^2
太陽は球体であり、放射強度は太陽からの距離の2乗に反比例して減衰します。地球の位置における太陽放射強度は、
S=S0×((1,392,000/2)/149,597,870)^2≒1,370W/m^2
平均的な熱収支図では、S/4=342.5W/m^2を100として描かれています。これは、太陽放射に直交する面に投影された地球の断面積が受取る太陽放射の総量を、球体の地球の表面積に対して均等に配分した場合の強度と言う意味です。つまり、熱収支図とは、平均的な地球の表面の単位面積・単位時間当たりの熱(エネルギー)の移動量を示したものなのです。
以下、地表面、大気システムについての熱(エネルギー)の収支についてみていくことにします。
地表に到達する太陽放射の大気による減衰
赤の実線は太陽表面における放射強度を6000Kの黒体放射とした場合の地球の位置(大気圏外)における放射強度を示す。黒の実線で示した地表レベルでの太陽放射の観測値との差が大気による減衰(大気による反射・散乱と気体分子による吸収)を示す。着色部分は可視光線の波長領域を示す。
まず地表面について考えます。太陽放射を構成する電磁波の波長領域は紫外線〜可視光線〜赤外線領域に分布しています。太陽放射の内25は雲や大気による反射によってそのまま宇宙空間に散乱します。更に紫外線はオゾン層においてほとんど吸収され、赤外線は地球大気の中に存在する赤外活性気体、いわゆる『温室効果ガス』に吸収されるため、地表に到達する太陽放射は減衰して可視光線を中心とする45になります。
地表面の温度は平均的に15℃(288K)程度であると言われています。地表面が黒体で近似できるとした場合、地表面からの放射の波長領域は主に赤外線となり、その放射強度はステファン・ボルツマンの式から次のように計算できます。
Se=(5.67×10^-8)×288^4=390W/m^2
これは、(390/342.5)×100=113.9に相当します。実際には地表面は黒体ではないので、実際の放射強度は射出率ε<1.0を用いて次のように書き表されます。
Se=(5.67×10^-8)×288^4×ε=390εW/m^2
図では、地表面の放射強度を104としていますから、ε=104/113.9=0.913程度としていることになります。
更に、地球には表面水があり、しかも大気によって覆われています。そのため、放射以外に水の蒸発による潜熱(24)や大気への熱伝導(図では上昇温暖気流と表記:5)で放熱しています。
さて、仮に地表面への熱(エネルギー)の入力が太陽放射45だけだとすると、出力133に比べて88だけ不足することになります。これでは地表面は非定常に冷却されてしまうことになります。これを補っているのが大気システム下端から地表面に供給される大気からの赤外線放射です。詳細については後述することにします。
次に大気システムについて考えます。大気システム(大気、雲、エアロゾルなどで構成)は、前述の通り太陽放射の一部(25)を直接受取り、更に地表水の蒸発潜熱(24)と地表面からの熱伝導(5)と地表面放射(100)によって熱(エネルギー)を受取ります。
対流圏大気のように比較的分子密度の高い気体は、「局所熱力学平衡」と呼ばれる状態にあり、大気中におけるエネルギーの移動あるいは分配比率は絶えず頻繁に起こる分子衝突(=大気を構成する気体分子の並進運動状態)によって支配されています。気体のエネルギー状態は、気体分子の運動(=並進)エネルギー、気体分子内のエネルギー状態(回転、振動)で表されますが、局所熱力学平衡状態では、太陽放射(25)、蒸発潜熱(24)、熱伝導(5)、地表面放射(100)で大気システムに供給された熱(エネルギー)が分子衝突によって並進・回転・振動エネルギーの間で常に相互転化しており、確率的にある一定の割合で並進・回転・振動エネルギーに分配されています。
その結果、大気の温度状態(=気体分子の並進運動状態)に対して、常に一定の割合の赤外活性気体分子は内部エネルギー的に励起された状態にあり、その温度状態に対応する定常的な赤外線を放射しています。
気体からの放射現象は、固体からの放射現象とは異なり、固定された表面が存在しません。ある高度で放射された赤外線は大気中のあらゆる方向に放射されますが、大気中を進むうちに赤外活性気体に吸収されて減衰していくことになります。
つくば市(北緯36度)における下向き赤外線放射観測値
この観測結果は、太陽放射の直達放射を取り除いた大気からの赤外線放射を「放射エネルギーを熱エネルギーに変換して熱電対により測定する熱型放射測器」によって測定したものです。観測条件は8月の北緯36度における観測値です。平均的な熱収支図の値342.5×0.88=301W/m^2と直接定量的な比較は出来ませんが、オーダー的にはよく一致すると考えられます。
現状の地球大気システムでは、下端において比較的下層の大気で放射された赤外線の内、赤外活性気体に吸収されずに地表にまで到達したものが88となって地表温度を維持していると同時に、上端において比較的上層の大気で放射された赤外線の内、赤外活性気体に吸収されずに宇宙空間に放出される赤外線66が地表面から直接宇宙空間に放出される赤外線4と共に、有効な太陽放射70とバランスすることによって、大気温度の定常状態が維持されているのです。
ここで、大気システムの下端と上端から放射される赤外線放射強度が非対称である理由を考えることにします。既に
『大気温度はどのように決まるか』で触れたとおり、地球の重力場における大気の鉛直温度分布は、大気の熱的・力学的な安定性から対流圏では下層ほど高く上層ほど低く、湿潤温度減率に従っていることを示しました。放射強度は絶対温度の4乗に比例するために、大気からの放射強度は下層ほど大きく、上層ほど小さくなるのです。これに、大気の分子密度による赤外線の減衰率の違いが影響しているものだと考えられます。
2.温室とは異なる「温室効果」
だいぶ前置きが長くなりましたが、以上が冒頭に示した図の示す内容の概略です。さて、では『温室効果』とは何なのでしょうか?一般的に地球を包んでいる大気によって、地表面が15℃程度に保たれているしくみをこう呼ぶようです。
地球に大気が存在しない場合について考えることにします。この場合、地表には植生が存在出来ませんから地球表面による太陽放射の反射率も大きく変わると考えられますが、ここでは反射率は変化しないものとしておきます。地球を暖めるために有効な平均的な太陽放射は342.5×0.70≒240W/m^2になります。これに対する放射平衡温度で平均的な地表面温度が近似できるものとすると、ステファン・ボルツマンの式から地表面温度は次のように求められます。
T={240/(5.67×10^-8)}^(1/4)≒255K=-18℃
実際の現在の地表面温度は15℃程度といわれていますから、地球大気があることによる昇温は33℃になります。この33℃の昇温現象を『温室効果』と呼ぶのは適切な表現とは思えません。温室内の空気が周囲の環境の気温よりも高温になる主な理由は、暖められた温室内の空気が温室によって周囲の大気循環から隔離されているために、大気の流れで攪拌されないことであり、これまで述べてきた地球大気の温度構造とは異なるからです。

3.温室効果は地表面放射の「再放射」ではない
CO2地球温暖化仮説では、大気からの赤外線放射に対して誤った説明がされています。CO2地球温暖化仮説では、地表面放射が温室効果(=大気下端における下向き放射)の原因であるかのように説明されていることがあります。冒頭に示した図においても、あたかも地表面放射104の内の100が大気システムに一旦吸収された後に、その内88が温室効果として地表面に向かって再び放射されるように描かれています。
大気に供給される熱(エネルギー)の経路は太陽放射(25)・地表面放射(100)・蒸発潜熱(24)・熱伝導(5)の4通りですが、局所熱力学平衡の下では大気の温度状態は頻繁に起こる分子衝突に支配されており、供給された全ての熱(エネルギー)は等価なものとして大気を構成する分子に分配され、分子衝突を介して並進・回転・振動エネルギー間で常に相互転化を繰り返しています。その結果、エネルギーは温度状態によって定まる一定割合で並進・回転・振動に分配されており、大気は各高度の温度状態によって定まる定常的な放射を行っているのです。大気の定常的な放射のうち、大気システム下端に到達する下向きの放射が温室効果と呼ばれるものの実体なのです。
つまり、地表面放射は大気に熱を供給する一つのチャンネルに過ぎず、地表面放射と温室効果(=大気下端における下向き放射)との間には何ら直接的な関係はないのです。温室効果とは地表面放射を吸収して励起状態にある赤外活性気体が基底状態の戻ることによって起こる『再放射』ではないのです。もし仮に、
大気の温度状態と独立に大気の放射強度が変化するのであれば、局所熱力学平衡が破れていることを意味し、対流圏下層大気の中では起こり得ないのです。
また、
ひどい解説では赤外活性気体間での放射・吸収の回数が増えることで温室効果が増大すると言う説明がなされていますが、そのようなことは有りません。問題なのは放射・吸収回数ではなく、大気の温度状態によって定まる放射を行う赤外活性気体の定常的な存在量なのです。
CO2地球温暖化仮説では、CO2濃度の増大で、温室効果はいくらでも増え、地表環境はいくらでも高温化すると言う主張でした。これまでの考察から、確かに赤外活性気体の存在量が顕著に変化すれば、大気の射出率の増大になる可能性はありますが、それによって単純に地表面の温度が上昇するかと言えばそうではありません。一つには、赤外活性気体の増加は大気からの放射の射出率の増大と同時に赤外線の減衰率の増大を意味するからです。また、大気は固定されたものではないため、下層大気が加熱されれば大気の対流や地表水の蒸散が増えるために地表付近の熱は大気上層に運ばれて余計に放熱されるためです。いずれにしても、大気中のCO2はごく微量であり、それほど顕著な変化があるとは考えられないのです。
4.熱は高い方から低い方へ流れる
さて、下層大気の温度構造を考える上で、CO2地球温暖化仮説とは別の誤解もあるようです。その一つは、地表面よりも低温である大気システムからの放射によって、熱(エネルギー)が地表面に供給されることは、エントロピー増大則に反するものであり熱力学的に有り得ないと言う主張です。言うなれば温室効果全否定論です。既に示した「つくば市における下向き赤外線放射観測」結果からもわかる通り、大気システム下端からの下向き放射は実在する現象であり、温室効果全否定論は演繹主義の誤用による机上の空論です。
※温室効果全否定論の本質的な誤り
ここでは、温室効果を大気システム下端からの下方への赤外線放射の意味とします。温室効果全否定論の本質的な欠陥は、温室効果がないと仮定すると地表面における熱収支を考えると地表面放射が現在よりもはるかに小さくなり、地表温度が維持できないことを理解していないことです。
ある温室効果全否定論者の方は、温室効果がなくても、大気の断熱圧縮で地表温度が維持できると言います。これは、温室効果がなくても対流圏上層の現在の温度が合理的に説明できると言う前提です。しかし、実際には温室効果があることによってはじめて対流圏上層の現在の温度状態が説明できるのであり、温室効果がなくなれば対流圏上層の温度も低くならざるを得ず、現在の温度を合理的に説明することは出来ません。
エントロピーとは、分子の巨大な集合としての物質の温度特性に関する物理量です。電磁波は物体から放射されますが、放射された電磁波自身は物質とは独立に存在するものであり、エントロピーの対象外の物理現象です。エントロピー増大の法則は、分子の巨大集合としての物質を含む系における現象の非可逆性を主張するものです。放射現象は可逆的な現象であり、それ自身はエントロピーの対象外の現象です。しかし、電磁波が一旦物質に吸収されて物質の状態量として顕在化すれば、これは勿論エントロピー増大則によって支配されることになります。
さて、大気システムと地表面との間の放射現象を考えることにします。大気は地表面に接していますが、電磁波による熱(エネルギー)の輸送は本来は物体同士が直接接している必要がない点が熱伝導とは異なります。これまで見てきたように、固体である地球の表面、そして気体である大気はその温度状態に対応する赤外線を放射しています。赤外活性気体はその温度状態に応じてあらゆる方向に向かって電磁波を放射しています。大気システム下端からの下向き放射の強度は88、地表面からの放射は104ですが、地表放射の内の4は大気システムに捉えられえることなく宇宙空間に放射されますので、大気システムに吸収される放射は100になります。
ここで『放射伝熱』を考えます。これは絶対温度が0でない異なる温度の物体間の放射による実質的な熱移動を示す尺度です。二つの物体の表面温度をそれぞれT1>T2とすると、その放射強度Rはそれぞれの表面温度の4乗に比例するのでR1>R2になります。この時、高温物体は単位時間・単位面積当たりR1のエネルギーを失い、同時にR2のエネルギーを受取ることになります。つまり、高温物体は差し引きすると(R1−R2)>0の熱を失い、同様に低温物体は(R1−R2)>0の熱を受取ることになります。この(R1−R2)>0で表される実質的な熱(エネルギー)の移動量が放射伝熱量です。
つまり、放射現象によって熱(エネルギー)は高温物体と低温物体の間で相互に受け渡されますが、実質的な熱の移動は常に高温物体→低温物体に流れており、高温物体と低温物体を含む系としてはエントロピーは必ず増大しているのです。冒頭に示した図を元に、放射伝熱量で実質的な熱の移動量についてまとめたのが次の図です。

上図において、地表から大気システムに向かう放射伝熱量は、冒頭の図の大気システムに吸収される地表面放射100から温室効果88を差し引いた値を示しています。太陽からの放射伝熱量は、地球の表面温度が太陽の表面温度に比べて著しく低いため、地球放射による影響は限りなく0に近いために、太陽放射そのものとして大きな誤りはありません。同様に、地球から宇宙空間への放射伝熱量は地球からの放射そのものと同じになります。
図から明らかなように、熱(エネルギー)は高温の太陽から地球を経由して、最終的に低温の宇宙空間へと拡散していくのです。地球では高温の地表面からより低温の大気システムあるいは宇宙空間に熱は流れていくのです。
さて、地球の気候システムの概要を説明する上で従来の熱収支図と、ここに示した放射伝熱量を用いた表示方法の二つがあります。ではいずれが優れているでしょうか?放射伝熱量を用いた表示方法では、実質的な熱移動量が一目で分かりますが、その反面、対象となる物体の温度についての情報が欠落してしまいます。気候を考える上で、温度と言う情報は非常に重要な要素であり、私は個人的には物質の温度と明確な(勿論近似的にですが)関係を示している放射強度を用いた従来の熱収支図の方がはるかに優れていると考えます。
最後に、本HPで使用している熱収支図とIPCC第4次報告書の図を示しておきます。冒頭に示した図とは多少数値が異なりますが、あくまでも熱収支の概略とご理解ください。
(数値出典:日本気象協会報告書,片山,1975年)

この図の数値の単位はW/m2です。図の”Back Radiation”という言葉を『再放射』あるいは『逆放射』と表現していますが、この言葉が二酸化炭素地球温暖化仮説の考え方、それ故その限界をよく示していると考えます。第4次報告書の再放射の値324W/m2は、平均的太陽放射に対する相対的な表現を用いると324/342≒95となり、多少大きめに評価しているようです。
5.おわりに
CO2地球温暖化仮説をめぐる議論では、科学的あるいは現象的に見て、必ずしも適切でない表現や象徴的な表現が多い様に思います。それはとりもなおさず自然現象としての科学的な検討の杜撰さを表しているようです。ほとんど気象現象やそれに関わる物理現象についての素人のような研究官僚が、権威をかさにとんでもない出鱈目を吹聴しているのをしばしば目にすることがあります。こうした人たちの発言には特に注意してその内容を吟味することが必要だと考えます。